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インタビューシリーズ:interview-02

「ロボカップヒューマノイドリーグへ向けて」・・・学生たちに聞く

司会:先川原 千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)室長
出席者:林原助教授, 千葉工業大学未来ロボティクス学科一年生;一澤勝弘、井上尚信、小椋慎祐、電気電子情報工学科三年生;清家洋平 (敬称略)

出席者全員の写真
左の列手前から、先川原室長、井上君、一澤君、  右の列奥から、清家君、小椋君、林原助教授

先川原:今日はロボカップに向けて活動しているメンバーに集まってもらいました。それではさっそく話を聞いてみましょう。

ロボカップヒューマノイドリーグに向けて
先川原:顔写真ロボカップには、「2050年にサッカーのワールドカップチャンピオンに、人間型ロボットで勝とう」という目標があります。それまでの過程として、現在の大会は様々なリーグに分かれています。ロボットの形としては人間型ロボットとそうでないもの分けることができますが、皆さんのチームは人間型ロボットでの参加チームですね。エントリーする「*ヒューマノイドリーグ」では、どのような競技を行いますか?
(*自律型2足歩行ロボットリーグ)
一澤 :顔写真まさにサッカーです。大きいロボット(60cm~1m)と小さいロボット(30cm~60cm )で戦う競技があり、このチームは小さいサイズのロボットを使って2対2で、競技を行います。小型ロボットには、その特性から不整地をいかに早く走れるかという競技も含まれています。
井上 :顔写真人が外から操縦するのではなく、あらかじめロボットにプログラムを組み込んでおきます。ロボットが頭のカメラでボールやゴールをみつけ、ロボット自身が考えて得点するよう行動します。首を回してボールをみつけるのもシュートを放つのも、すべてロボットに搭載したコンピュータが判断して行います。
先川原:ロボットがすべてを自分で判断するという、大変難しい競技ですね。
林原 :顔写真入賞の基準はサーカーゲームですから、点をより多く取ったチームが勝ちます。しかし、ロボカップには他のロボットコンテストと違い「ロボカップ精神」というものがあります。それは、サッカー競技で勝てる強いロボットチームを作ることと、新しい技術を開発し、その技術を公開するというものです。多くの時間と人手をかけて作ったプログラムを無償公開するのです。世界規模で多くの方々が関わりながらロボットを開発し、最終的には2050年にその技術を集結して人型ロボットを完成させていこうというプロジェクトです。ロボットには様々なテクノロジーが含まれていますから、技術的にとてもインパクトのある物を無償公開しているわけです。
先川原:すばらしい事ですよね。
林原 :ロボカップは今年で11年目になりますが、10年前に始まったときには、まだ技術が成熟していなかったため、ロボットがボールに近寄ることさえできませんでした。煙を吐いて止まるマシーンやバタバタして走らないマシーンもありました。ロボットは、どこか一カ所でも弱いところがあると全体のシステムが作動しません。それぞれのチームが、専門分野では非常に高度な技術を持っていながらロボットが動かなくなってしまうのはそのためです。
ところが、10年経った今では、最も戦略的に優れている小型機リーグでは、5対5の対戦でパスをしないチームは勝てないし、相手の戦略を見て学習し、戦略を作りかえていかなければ一点も取れない状況です。スピードも1~2m/秒があたりまえで、ロボットの動きが目で追えないほどの速さです。シュートは秒速10メートルを越えますしね。それは、皆が技術をオープンにしたからこそ成し得たことです。
先川原:ラジコンの名手でさえロボットとの対戦では、全くその速さについていけず一点もとれないようですね。

ロボカップとの出会い
先川原:では、小椋君、まだ入学して一年経っていませんが、そのロボカップとの関わりはいつからですか?
小椋:顔写真2006年11月からです.学内のプロジェクトで知能ロボットコンテストの勉強会をしていたのですが、ロボカップのヒューマノイドを林原先生が始めそうだったので、参加させてくださいとお願いしたことが始まりです。
先川原:先生、それは正式にヒューマノイドリーグの募集をしたのですか?
林原 :自然にやりたい人が集まった形ですね。実は、今年はロボカップに参加する予定はなかったのですが、昨年参加した一澤君から今年もやりたいという申し出があったんですね。やる気のある学生さんには「場」を提供するのがつとめですから、何とか実現できないか可能性を探っていました。その矢先、組み込みシステムメーカーの「ブレインズ」さんから千葉工大,「はじめロボット」さんと組んでロボカップに参加したいとの話をいただきました。ブレインズと我々はお互いに技術協力をしており,今までも様々なロボットを開発してきました.一方はじめロボットは安定したヒューマノイドを作ることで有名です。これはやるしかないなと思いました
先川原:ロボカップは基本的に人工知能学者が参加する大会であり、学生であれば大学院生が参加するのが普通ですから、学部生にはハードルが高そうですね。日本で一番難しいクラスのロボットコンテストのチームに参加して、今何を勉強していますか?
井上 :今はヒューマノイドの基本的な動かし方やデータをとることを学んでいます。深いことはわからないので僕たちが思いつく範囲で、例えば、足の裏が少し曲がっているからロボットの初期位置を変え、まっすぐに動くようになおすといったことをしています。
先川原:丁稚奉公でまだ中身はわからないけれど、とりあえず「慣れて勘所をつかむ」といったところですか。
井上 :自分でも改良するべき部分を見つけたいとは思いながらもまだ難しくて。これから勉強していきます。
一澤 :僕も人型ロボットをやりたいので、参加して学んでいきたいと思っています。
先川原:清家君はこの中で唯一、電気電子情報工学科の三年生で南方研究室*所属ですね。そちらの研究との関連はありますか?
(*南方先生は、未来ロボティクス学科新設と同時に未来ロボティクス学科に移籍)
清家 :顔写真直接の関係はないです。ゼミに入ったとき、将来ヒューマノイドをやりたいと南方先生にはお伝えしてありました。11月後半、突然南方先生から林原先生のところでヒューマノイドの調整をはじめると教えていただき参加しました。南方先生には感謝しています。
先川原:南方研究室での卒論のテーマは決まっていますか?
清家 :ヒューマノイドとの関係はないですが、水道管の掃除をするロボットはどうだといわれ、そちらもいいなと迷っている段階です。
先川原:では、ロボット作りは学生さんたち自身の興味だけでやっているわけですね。
林原 :単位とは全く関係ありません。むしろ彼らにとっては勉強する時間がなくなるという意味で「マイナス単位」ですね。
先川原:しかしこれほど実践的な勉強もないですね。技術系企業の人も一緒に参加していますし。

デスクワークと実践
先川原:授業での電気回路や数学といった基礎勉強と、いまヒューマノイドでやっている内容との関連性を実感することはありますか?
小椋 :電気回路の授業で習った部品を、実際の電気回路基板に見つけたときなどは「本当に使ってあるんだ」と。実際に自分の目で見ると、教科書の勉強がどう使われているのかわかりますね。
先川原:ところで、今のプロジェクトチームの人数構成や編成している団体はどういうものですか?
林原 :「CIT Brains and Hajime Robot」という名前で、3つの団体から成り立っています。CITは南方先生と私の教員2名と学生4名の計6名。Brainsは小型のCPUボードや画像を取り扱っているベンチャー企業です。社内で最重要課題として専属の社員さんとアルバイトさんを含めて4名参加されています。Hajime Robotは、はじめ研究所が販売するロボットの名前です。研究所代表の坂本はじめさんは、ホビーロボット界では有名な方です。先日、未来ロボティクス学科の特別講義に来ていただきました(「プロが語る」コラム参照)。会社立ち上げの話から会社の運営、ロボットの開発について等、実践的な話をしていただきました。
先川原:それはいい話を聞けましたね。
林原 :ヒューマノイドロボットを100体以上作られたプロフェッショナルで、ロボットに情熱を傾けている方です。
その他あと一名参加されています。チームの構成ですが、ヒューマノイド、CPU、画像のプロがおり、私は人工知能が専門ですのでバランスのいいチームとなっています。世界の第一線級の方が集まったチームといえると思います。ロボットの全てをこのメンバーで作っています。
先川原:君たちには大きな使命感やプレッシャーがありますね。ロボカップには世界中から人が集まってくるし、立派なチームであればあるほど皆が話しかけてくるわけですよ。それも英語で。参加者だけで2000人位の規模でしょうか。世界中からメディアも集まりますしね。みなさん、英語は勉強されていますか?
井上 :正直言うと、英語は苦手で・・・
一澤 :去年ドイツに行かせていただいて、周りの人のロボットに対する情熱のすごさにびっくりしましたが、何を聞かれても何も答えられなかったので・・・英語の必要性をものすごく感じました。
清家 :僕は日常会話なら何とかなりますが、ロボットの専門用語が出てくると、どう表現していいのかわからなくなってしまいます。
先川原:それならば、あとは単語の問題で早く習得できると思いますよ。
小椋 :僕も物理や数学の単語がわからないので、そこで苦労すると思いますね。富山先生の授業でも単語で時々わからないものが出てくるので、勉強しなくてはと思っています。
先川原:必要性を感じる事が大事でしょうね。

ロボカップに向けて
先川原:今後のスケジュールとしては5月にロボカップ・ジャパンオープン、7月にロボカップ世界大会がありますね。ジャパンオープンには参加されますか?
林原 :全員行く予定にしています。
先川原:ジャパンオープンでの上位入賞と、世界大会への出場資格との関連はあるんでしょうか?
林原 :世界大会には書類審査とビデオ審査があり、その審査を通ったチームだけに出場資格が与えられます。したがって、ジャパンオープンの上位入賞との関連はありません。ちょうど今は出場者登録が終了したところでこれから審査に入ります。
先川原:あと三ヶ月しかないですね。5月までの各自分担箇所を教えてください。また、何か苦労していることがあればそれを聞かせてください。
小椋 :メカ担当です。今はロボットを動かして角度がずれてしまったときの調整のために枠を作ることになり、そのフレームを作っています。それとロボットが倒れたときの防御用に、腕にクッション性のあるものを考えています。 苦労している点ですか。フレームをロボットが直立している姿勢を初期位置として設定して作ったのですが、その姿勢ではロボットが動かないことがわかりました。少し足を曲げて前屈みの状態に設定しなおして、フレームを作りなおすことになってしまいました。
林原 :ヒューマノイドは、例えば足首の関節が1度ずれただけでまっすぐには歩かなくなります。その1度をどう合わせるかということをいまやっています。ロボットを起動するたびに角度がずれることがあるので、常に修正をかけていかなければなりません。それならばメカでできることは何かと考えました。ある基準となる枠を設けてそこにロボットをカチッと当てはめて角度を調整しようと皆で相談したのです。彼らメカ担当にはそのフレームを作ってもらっています。その後の調整は制御で行おうと思っています。ヒューマノイドはまだまだ未熟な技術が多く、やってみないとわからないことがあります。
今のCITのメンバーのうち去年のヒューマノイド経験者は一澤君だけです。皆、ゼロからスタートするようなものですが、いろいろな経験をしてもらい改善しながら活動しています。
先川原:毎日試行錯誤の連続ですね。井上さんの担当は?
井上 :僕はプログラムの担当ですが、まだオリジナルのプログラムを書くほどの技術は持っていません。アプリケーションとしてあるものを解読して、ツールとして使える部分を増やしていこうとしています。
先川原:解読に一生懸命ということですね。プログラムはどなたが?
林原 :運動制御は「はじめ」さんのものが、画像処理等の知能の方はブレインズさんと昨年参加したときのチームのものがベースです。少しずつ解読しながら、学生さんにはパラメータ調整などを担当してもらっています。複雑なシステムですのでパラメータの数は300くらいあります。少し数値を変えただけでロボットの動きが変わるためそれを一つ一つ詰めたり、モータの温度センサが示す数字をチェックしたり、初期位置のずれを測ったりしています。今やっていることは工学技術というよりは調査・研究といったほうが近いですね。特性を測って安定化させようと思っています。
先川原:研究室の卒論のようなものですね。一澤君は?
一澤 :僕も小椋君と一緒にメカ担当で、倒れたときの胸の外装をやっています。小椋君と2人でフレームを作っているところです。
先川原:一澤さんも小椋さんと同様なところで苦労していますか?
一澤 :ハードであるロボットのベースは「はじめ」さんに作っていただいているものなので、プログラムの特性をみてフレームを作っていかなければなりません。ハードとソフトの関連でどのように調整していくかというところが難しいです。
先川原:清家さんは?
清家 :今は井上君と同じようにソフトウェアをやっています。僕は今までデスクワークが中心で、三年生とはいえロボットを実際に調整したことがありません。前期からロボットに触っている未来ロボティクス学科の一年生よりも、ロボットに関しては「より初心者」なのです。ですから初心者の視点から意見を出させてもらっています。
先川原:おもしろいですね。先輩なのに実物のロボットに関しては後輩・・・
林原 :でも、やはり高学年で知識はあるし回路もよくわかっていますよ。
先川原:やはり2年余計に勉強をしているからでしょうね。勉強は大事ですね。
ところで、ロボカップチームはいつ活動していますか?
小椋 :「はじめ」さんとの合同ミーティングは月に一回ですが、僕たちの活動は基本的に放課後です。これからは春休みに入り時間を全部使えます。ただ、僕らのメンバーは知能ロボットコンテストにも手を出してしまっているので・・・
林原 :彼らは正月三が日は休みましたがそれ以外の休みはすべて当てていますし、帰りはキャンパスが閉まる夜10時位までやっていますね。
先川原:大変ですね。でも面白いからやっているのでしょうね。それに知能ロボコンも継続しているとは・・・全員ですか?
清家 :僕は就職活動です。

就職について
先川原:そういえば、大和ハウス工業の研究所から、いい人材がいたら紹介して欲しいと言われています。実は、未来ロボット技術研究センターは大和ハウス工業さんと床下点検用ロボットを共同研究しているんですね。こうした共同研究を通して、企業や研究機関から学生さんが密かに一本釣りされることはよくあります。
今、産業用ロボットでは日本が圧倒的なシェアを獲得しており、産業用ロボットといえば日本という位置づけがあります。しかし、工場ではなく我々の周辺で働いてくれる「サービスロボット」を手がける会社は、現時点ではほとんどありませんよね。
では、ロボット技術を学んでもそれを生かせる職場はないと思いますか?そんなことはありません。家電、自動車、建築等々、多くのメーカーがロボット技術を持った人材を必要としているんです。ロボット専門学科を出たからといって、ロボットと名のつく企業だけが就職先ではありません。ですから、君たちもしっかり勉強さえしていれば、就職についてはあまり心配しなくていいと思いますよ。 いいことを教えましょうか。ロボットコンテストの会場には様々な意味でのキーマンが集まって来ますから、そこで多くの人脈を作りましょう。今は採用方法も多彩ですから、そうした場から就職のチャンスが生まれるかもしれません。
林原 :ロボティクスに必要なメカ、電気、プログラムといった技術をしっかり身につければ、皆さんは世の中に貴重な存在となるはずです。いま、ロボット技術は世間から非常に注目されています。現にロボカップの大スポンサーは、マイクロソフトで実際にロボットの開発環境を提供し始めています。

目標
先川原:
小写真
では最後にみなさんの目標を聞かせてください。
清家 :
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僕はプログラムを全て読んでサポートできるようになりたいですね。先生方にまかせきりにしないで、せめてこの範囲は任せて下さいと言えるように。
井上 :
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ロボカップでは世界一になってみたいです。いまはそのために自分のできることをしていきます。ロボカップやロボコンを通して、一年の後半になってやっと授業で学んでいることがすごいことだとわかってきました。理論を勉強し、将来は研究者として理論でやっていけるようになりたいです。
先川原:まるで先生たちが言わせているかのような答えが返ってきましたね! そういえば、ホビーの世界でもロボットをやっている人たちは、理論をきちんと分かっている人が多いといわれています。
一澤 :
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ロボカップに関しては、いま与えられたことをしっかりやっていこうと思っています。将来は、自分の作ったハードウェアで、世界に対抗していけたらいいなと思います。さらに、ロボット専門の会社でロボットの研究を続けていきたいです。
小椋 :
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僕はやるからには世界一を目指したいです。でもロボット競技では、世界一も日本一も同じくらいのレベルと言えるかもしれません。
先川原:競技の種類によっては日本でトップを取れれば、世界でも上位入賞間違いなしというものもありますが・・・
小椋 :この大学に入った動機は、壊れたおもちゃなどを自分でなおせるようになりたかったからです。ロボットももちろんそうですが、自分の周りにある物すべてを理解できて、修理でも何でもできるようになりたいです。
林原 :
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それで一年経って少しはわかるようになりましたか?
小椋 :少し何かわかってきたかなという段階です。
先川原:それはよかったですね。しかし何もかもわかったとは思わないほうがいいですよ。
では、今日はありがとうございました。皆さんの検討を祈ります。