トップinterview-03

インタビューシリーズ:interview-03

「プロの夢 ―― 18mのガンダムをつくる」・・・はじめ研究所 坂本元氏に訊く

はじめ研究所 取締役 坂本 元氏

大学の期末試験も近づいた2007年1月26日(金)の「ロボティクス概論-II」の最終回の授業に、特別講師として はじめ研究所 取締役 坂本 元氏をお呼びしました。

講演写真 講演写真
「ガンダムは夢である」と語り、「はじめロボット」を実演しながら技術要素を解説

講演写真 講演写真 講演写真 講演写真
興味のある話題に夢中 「はじめロボット」を動かしながら説明 講義後、学生の質問に熱心に答え

二足歩行ロボットを製作してきた経験からロボット製作における各基本技術要素を解説していただきました。ロボットによる起業や、自身の夢として目指しているロボット開発といった話にも言及、最後に、現在製作中の最新ロボットのビデオも披露し、学生の皆さんに大いなる刺激を与えました。

坂本氏と千葉工業大学は、今年のロボカップヒューマノイドリーグに合同チーム「CIT Brains and Hajime Robot」で参加いたします。

プロフィール

氏名: 坂本 元(さかもと はじめ)

1967年1月
和歌山県田辺市生まれ
1989年3月
上智大学工学部電気・電子工学科卒業
1989年4月
川崎重工株式会社入社
LNG船主機ボイラのデジタル制御装置や500系新幹線試験車両(ウィン350)の車体傾斜制御など
2000年5月
同退社
2002年4月
中小企業診断士取得
2002年12月
有限会社はじめ研究所設立
この後、ヒューマノイドロボット界の有名人となる

坂本さんはすでにヒューマノイドロボットを100体以上製作されており、ホビーロボットの世界では知らない人がいないほどの有名人です。二足歩行ロボットの格闘競技大会「ROBO-ONE」では常に決勝リーグに進出しており、昨年のロボカップ世界大会では「でこぼこ道」走行種目で優勝しています。国内外のロボット競技会ですでに10回以上優勝を果たしているつわものなのです。2005年に開催された「愛・地球博」ではステージでロボットのデモンストレーションを披露しました。日本テレビ番組「ワールドレコーズ」やTBSテレビ番組「うたばん」、フジテレビ番組「爆笑問題・伝説の天才」等、マスコミでも数え切れないほど取り上げられています。坂本さんが製作したロボットは注文生産が中心です。完成度が高いと評判で、海外からも多数注文が来ています。それだけでなく、日本ロボット学会賞を2度も受賞したことからわかるとおり、技術と理論を兼ね備えている達人です。


[ロボットとの関わり]プロとして夢を追い続け

座談写真

講義の後、坂本さんからお話を伺いました。

富山:今の会社をつくられたきっかけは・・・
坂本:川崎重工では、ソフトウェアの開発に従事してきましたが、人生は一度きり、自分のやりたいことをやろう、何か人のためになることをやろうと起業しました。
1995年、阪神・淡路大震災に被災した際、炊き出しなどのボランティアを経験しました。物を失い落ち込む人々がいる一方、すべてを無くしながらも明日にむかって頑張ろうという人々を目の当たりにし、本当の「豊かさ」というものは「物」ではなく「心のよりどころ」、「精神」だと思いました。
ロボットを製作・販売する仕事をやることにしましたが、被災の経験から「人の役に立つロボット」ではなく「人々に夢を与えられるロボット」をつくろうと考えたのです。今は小さいロボットをつくっていますが、いつか身長18メートルの「ガンダム」をつくるというのが私の夢です。ガンダムのテーマパークをつくり皆さんに喜んでもらいたいですね。

[ロボット技術]ロボットづくりを極めるには

富山:ヒューマノイドロボットをつくるには、どのような技術が必要と考えていますか?・・・
坂本:ヒューマノイドロボットだけではなく、すべてのロボットに、 1.メカの設計の技術、2.電気の技術、電気回路や基盤を造る技術ですね、3.プログラムをする、ソフトウェアの技術、そして 4.制御の技術 が必要になってくるでしょう。
富山:まさにそれは、本学科の一年から、二年前期までに、学び、経験することですね。
林原:座談写真

坂本氏のロボットは、本日の講義でも電源を入れてすぐ動くという「成熟した」ロボットで、さすがプロはすごいと思いました。企業内での仕事と起業後の仕事にはどのような違いがあり、また、どのような勉強をされたのでしょうか・・・

坂本:重工では高価な機械で加工することが多かったため、機械を壊さないように安全率を高めに設定し、余裕を持った加工方法を学びました。そのころ私の担当はソフトウェアでした。ところが、自分の会社でロボットをつくるとなると、何から何まですべて自分でやらなければならないので幅広い知識を得る必要がありました。もし、企業に残っていたら、ソフトウェアについてとても深く掘り下げた研究をしていただろうと思います。独立後はロボットをつくりはじめましたが、何かブラックボックスのような部分が一箇所でもあるとうまく作動しません。そのようなことのないように幅広くやってきたので、バランスの良い物にはなっていると思います。

[学生への期待]なぜ大学でロボットをつくるのか

王:坂本氏のロボットの高い信頼性が実証しているように、坂本氏はそれぞれの分野をしっかり独学で学ばれ、要点を押さえた簡潔な設計をされていますね。それでいて掘り下げようと思えば、いつでもさらに深く追求できるという能力をお持ちです。それは、きっちりと勉強されたたまものですね。
これから学ぼうとする「ものをつくった経験がない学生さんたち」にロボットづくりができると思われますか?
坂本:大学に入学時の学生さん達の能力は、実はあまり差がないように思います。たまには突拍子もない天才のような人もいるかもしれませんが、まれだと思います。ものづくりをしたことがない学生さんでも恐れることはありません。これは実体験からですが、ロボット製作に一生懸命打ち込んで、何とか成し遂げようという気持ちを持っていれば、自ずと技術は習得できます。
富山:本学の学生に期待することはありますか?・・・
坂本:坂本氏写真大学で学んだことすべてが長年にわたって役に立つとは限りません。技術は10年も経てば古くなってしまうからです。大切なのは勉強に対する姿勢です。技術そのものより技術をどのように習得するかが大事なのです。問題を解決していくためには論理的に考えることも必要です。すべてにわたり一生懸命やる姿勢を大事にしてください。プロジェクトがうまくいかないこともあるでしょうが、そうした経験を通してどう対処していくかを学ぶことが重要です。
林原:人間型ロボット写真坂本氏にご協力いただいている現在進行中のプロジェクトはロボカップ関連のものです。5月3日からロボカップジャパンオープン、7月1日からアメリカのアトランタでのロボカップ世界大会を控え、本学で準備を行っています。春休みには全ての時間を使えるようになりますが、お正月も返上で気が付いたら朝だったということも多々ありましたね。坂本氏も講義でおっしゃっていたように、楽しいことをやっていると時間の経つのも忘れ、仕事なのか趣味なのかわからなくなってしまいます。
王:アトランタで坂本さんとご一緒して、また学生達がいろいろと気づくこともあるでしょう。学生にとってなかなか体験できない機会です。その時もどうぞよろしく学生達をご指導下さい。
一同:本日は、ありがとうございました。