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インタビューシリーズ:interview-04

「興味から専門:ロボット創造」・・・米田教授に訊く

聞き手:先川原 千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)室長

写真

先川原:顔写真今日は米田先生にお話をうかがいます。
まず、先生のご専門ですが、どのようなことをされていますか?
米田:顔写真専門は、「歩行ロボットをつくる」 ことですが、ロボットの中で、「こんな形があったらいいな」、「今までなかったような仕組みを作りたいな」、という考えを優先して、それがかなうなら、歩行ロボットでなくても作りたいと思っています。ロボットの形は、生物の形を真似ればロボットのようにはなるけれど、そういうものではなくて、「機能を追求する事で形が決まる」というものを作りたいのです。
例えば、パワーショベルは、あの形が格好がいいからあのフォルムになっているのではなく、あれが性能がいいからあのようになっている。ですから、歩行ロボットでも、性能第一ならば二本足でなくても、馬のように4本足でなくてもいいはずだと考えるのです。そういうことを追求していきたいと思っています。
先川原:先生のつくられている、4足歩行や、6足歩行のロボットは、生物を真似しているというよりは、何か目的があってあのような形になっているということですね。
米田:そうです。もし、ベースになるものが何もない場合には、例えば4足をついて、地面をペタペタと移動していくものの中では、どんなものがいいかなと考えるわけです。昔の人は、馬に羽を付けてみたり、人間の下半身を魚にしてみたりする発想があり、実在しない生物を考えたわけですよね。それを今、ロボットでやりたいのです。たとえば、地中をもぐるロボットと考えたときに、もぐらの真似をするのではなく、ロボットなりの形というものになると思うのです。
先川原:たとえば、先生の部屋にある、4足のロボットを発想するときに、どのようなところからアイディアが生まれてくるのですか?
米田:写真ロボットを成功させる最初の段階では、基本の性能は複雑にしないで、シンプルにするということです。あとで、あの機能も欲しいと次々に複雑になっていきますから。シンプルというのは、たとえば4足歩行ロボットなら、普通は12個つけるアクチュエータ(モーターの数)を少なくするというようなことです。究極として、理論上はモーターがたった3つでも、4本足で前に進んでいく事はできるのです。
先川原:モーターが3つでロボットが動くという事になれば、ロボットが安くつくれるとか、様々なメリットがでてきますね。
米田:安くもつくれるし、また、たとえば、マイクロロボットをつくろうというときに、少なければつくりやすいですよね。ですから、2足歩行のときも、6足歩行のときも少ないモーターで考え始めるという事です。
もとはといえば、大学に入った頃(25・6年前)は、学生ですから、アクチュエーターをたくさんつけるのは、経済的にも大変だったのです。性能の悪い安いモーターを買うしかないので、あまりモーターの性能に依存したものはつくれない。小さめで、数も少ないモーターでつくれるもの、アクチュエーターが頑張らなくてもいいものというように、工夫をしていたのです。結局は、そのような工夫が大切なのです。
先川原:小さい頃から、ロボットはお好きでしたか?
米田:機械ものは、好きでしたが、ロボットというもの自体が、アニメ以外では、世の中でまだ子供の日常とは遠いものでしたから、自分でつくれるものとは思っていなかったですね。私の感覚では、アニメのロボットは、「少し人間と違ったもの」というだけなのです。ドラえもんも何か普通の人間と違うというだけで、ロボットでなくても、と思うのです。スーパーマンと鉄腕アトムはどこが違うのか、ロボットという感覚よりも、「人間より何かすごいやつ」と思うわけで、私の場合はアニメに触発されてロボットをつくろうと思ったのではなかったです。
先川原:機械工作はお好きでしたか?
米田:小学生の頃から工作はよくやっていましたし、プラモデルもよくつくっていました。中学では、鉄道模型。高校になると、金属板に穴を開けたりというレベルになっていました。
先川原:ロボットは、大学に入った頃に始められたのですか?
米田:1年の時に先輩がつくったサークルに入り、そこで初めて触覚がついているような、動きのあるロボットを最初の教材としてつくろうと思ったのです。それまでは、オーディオのアンプをつくろうかとハンダ付けしたりしていたのですが、初めてそこで、ロボットというものの存在に気づいたのです。
先川原:当時はまだ、趣味と言えば、自動車、無線、オーディオでしたから、既存のサークルもそのような分野に分かれていたのですね。先生が入られてから、ロボットという形で、それまで分離していたいろいろな要素が一緒になったということですね
米田:そうです。当時図書館などで、ロボットをつくるためにいい本はないかと探しました。そうすると、制御工学や、機械力学などの本はありましたが、制御の本を読んでも、では、どういう回路でやればいいかは書いていない。制御だの、電気の本だの、あれこれひっぱりだしてみないといけない。どれ一冊を読んでもすぐにロボットはつくれないというようなものでしたね。
先川原:先生のような秀才がそう思われたのですね。各分野に分かれていた知識を統合しないとロボットはつくれなかったということですね。先生は、それで「ロボット構造設計」の本をお書きになったのですか。
米田:写真図書館の本を沢山読んだのに、ロボットをつくれる本がなかったですからね。基本を学べるようにしながら、ロボットを効率よくつくれるようにと、昔こういう本があったらなというような本を書いたわけです。本を出版するに当たって、B5版というサイズを選んだわけですが、これは、よくコンピューターマニア向けの、「好きで研究するための本」がこの大きさでできているからです。B5版サイズで、かつ柔らかい表紙の本としたことで、教科書ではなく、「好きで研究する」というイメージができて、それがいいなぁと思ったのです。それに、内容も沢山詰まっている方がいいと思って、びっしり詰め込みました。
先川原:私も書籍の編集をしていましたが、この字の細かさでは、普通の文字の大きさにしたら、1.3倍の厚さの本になりますね。すごい情報量ですし、しかも3冊もありますしね。今大学2年生が使っていますが。
ところで、あの頃東工大で森政弘先生が、乾電池一個でロボットを動かしてロボコンの原型のような事をなさっていましたが。
米田:私は、森先生のいらした学科とは違っていたのですが、他の人がやっているのを目にした事はあります。
先川原:では、先生は学生時代に、森先生がロボコンを始められたのと同時期に始められたのですね。先生の大学時代にロボコンが始まって、いつのまにかそれを教える立場になられたと。
米田:学部と修士は物理学科でした。高校の教員になりたいとは思っていましたね。修士時代に、ロボットを続けようと思い、機械物理工学のドクターコースに進みました。そういえば、小学校の卒業時の将来の夢に、「大学教授か設計技師」と書いてありました。設計して、ものをつくるという事と、大学教授と・・・
先川原:かなり的確な未来予想ができていましたね。
当時、大学で教鞭をとられながら、機械学会主催のロボットグランプリで指導されていたように、学外の教育活動にも力を入れられてましたね。
米田:大学近くの文化会館などで、1500円位でできるものを用意して、小学生2~30人を対象にした工作教室のようなものを開催すると、工作が好きでやりたいと思った子どもたちが集まってきたので、私もとても楽しかったですね。そこで心がけた事は、出来上がったものを喜んでもらうだけでなく、つくっている段階から楽しめるようにしたことです。小学生が自らバンドソーを使ったり穴をあけたりしてつくれるというように、機械工作自体を楽しんでもらいました。小学生ができるように、いろいろ工夫をするのも好きですし、生徒の状態に会わせて、教材を準備するという事が好きなんですね。今の大学2年生にも同じように準備しています。
先川原:そのような工作をする機会があれば別ですが、今の子供たちは、高校生でも、ものをつくった事がないという人が増えていますね。普通高校で、学科でものをつくった経験がないけれど、ロボット学科に入学してついていけますかという相談をよく受けますが。
米田:今の1、2年生にはいろいろな人がいますが、大半は初めての人ですから、一からそれにあわせて指導します。この大学での学科はロボットと関連づけて教えていますし。
先川原:それが、この未来ロボテイックス学科の特徴ですね。数学も、プログラミングも、電気の回路もロボットと関連づけた授業をする、学生のモチベーションのためにそれは必要ですね。
米田:写真学生と年は離れてしまいましたが、学生だったら、こういうものがほしいだろうなとか、こう思うだろうなという事を常に考えますね。自分がロボットの研究だけしていればいいかというとそうではないんですね。学生といると楽しくてしようがないですね。
私自身がいやいや勉強するのは嫌いでしたから、学生にも嫌々やってほしくはないのです。一年生には、3時間続きの授業もありますが、いろいろ工夫して3時間を楽しく過ごせるように心がけています。学期の終わりにアンケートをとりますが、あまり厳しい事はもともと学生は書きませんが、つまらなかったとか退屈だったというものは、ひとつもなかったですね。
先川原:学生といると楽しくてしようがないというのは、すばらしいですね。
ところで先生のお好きな食べ物は?
米田:お菓子が好きですね。学生と大きいロボットの実験を何度も繰り返している時に、「よしおやつにしよう」と食べながら一緒に考える。何時間も考えていると、好きでやっているにしても脳も疲れてくるので、少し落ち着いて離れたところから考えると「じゃこうしよう」と思いついたりする。ですから、今日は、長い時間実験室に入るというときには、まず沢山お菓子を買って、用意してから始める。
先川原:いいですね。
ロボット以外に ご趣味は?
米田:建具をつくったり、家具をつくったり。 このテーブルは、ここに越してくるときに、つくりました。
どんなのがいいかな、たとえば三角だったらどうだろうか? 座った人同士が、近すぎず遠すぎず、いいかな、と思うと、実際につくって本当にいいかどうか試したくなるわけです。自宅の工房でつくって、できあがって、ああなかなかいいじゃないかと。足は三本でガタガタいわないし、形は成功したけれど、木がそってきて、間が開いてきてしまったというのは、はじめての経験でした。足は、ただ上から重力がかかっているだけでなく、蹴飛ばしても大丈夫なように横にも強くなければならないので、どんな構造にしたらいいのか売っているものも見ながら、考えてつくりました。
先川原:ご自宅の家具もつくられるのですか?
米田:家具はつくっていませんが、自宅は自分で設計しました。
先川原:ご自宅を? 建築士の資格をお持ちなのですか?
米田:写真いや、ないない。建築士の資格はないけれど、趣味で建築の本は沢山読んでいますから、自分で簡単な図面を書いて、建築士の人に申請用の図面は書いてもらいました。このぐらいのスパンなら梁をわたせるはずだとか、壁はこのくらい必要だとか考えながら書いたのです。家中どこにいっても寒くない家という、家人の希望を聞いてつくりました。バスルームもホテルのようなワンルームに、バス、トイレ、洗面台があるタイプです。そこでかねがね思っていたのは、洋風バスルームでカーテンを引いてシャワーを浴びると、バスタブが狭くなり、さらに上昇気流でカーテンが中に入ってきてしまうのをなんとかしたいと考えて、バスタブの外に少しタイル張りのたちあがり部分を設けて、カーテンの裾がそこにくるようにしたのです。こういうのがあればいいなというのを、図面を書いてつくってもらいました。
先川原:あのカーテンに関しては、私もそう思っていましたが、工夫をして実際に欲しいものをつくってしまわれるのですね。
先生の部屋の椅子も良いデザインのものが多いですね。
米田:格好のいいものがほしいですね。ただ、この椅子もそのままのものではなくて、実は別の椅子の足に替えてしまって、機能的にも追求しました。
先川原:先生のつくられるロボットも見た目の良いものが多いですね。
米田:もちろん見た目も良いものがいいですが、見た目のために性能が悪くなるのは困りますね。ただ、最初に図面を書くと、形はこれでいいかなとやはりレビューはしますね。
先川原:では、ここで、ロボットをつくっている学生に、うまくいかなかったときに、どのように考えたらいいかをお教えください。
米田:はじめから、これは絶対失敗しないはずだという事は、考えない事です。 私の場合は、よ~く考えてあるから、8割9割はうまくいくとは考えてはいますが、何個もトライしてだんだんよくしていけばいいのです。
私の紹介のところにも書いてありますが、いいロボットをつくろうと思ったら、100個は考えて、そのうち厳選した10個をつくってみて、一個成功すればいいと。逆に1個成功させたいと思ったなら、100個位は考えるというくらいの覚悟がいるでしょう。 私のロボットの1号機、2号機とあるのは、だいたいうまくいかなかったからその次ということでつくるわけですから。
先川原:先生のような方でもそうなのでしたら、経験の少ない学生は、あきらめないで頑張ってほしいですね。
先生の研究室では、学生にどのようなことを希望されますか?
米田:新しい形を考えるという事を追求したいので、学生も積極的に参加してくれるような人を希望しますね。「先生考えておいてください、設計ができたらやりますから」、じゃ困るんですね。
先川原:そうですか。先生によっては、先生がアイディアが豊富で、ご自分のアイディアを形にしてくれる学生を求める先生もおられますが。
米田:ベースに何もないと新しいものがでてこないので、私と一緒に考えて、学生の発想が例えば4割入っていれば、私も学生もできるのが楽しみになりますよね。
先川原:では最後に、これからロボットを勉強したいと思っている人たちに、アドバイスをお願いします。
米田:写真アドバイスとしては、二つあります。
一つは、新しい発想ができるように、いろいろなものの形だけでなく、動き、仕組みを見ておくこと。たとえば、ショベルカーのようなものや、家の中では、ドアの蝶番がどのようになっているか、折りたたみの椅子はどうなっているかのように。そうすることで、頭の中で、何でも立体的に考えられるようになります。 小さいうちからこれはやっていてほしいですね。小さい子供でも、電車を見るのが好きなら、絵を描いたときに車両の中に台車が2つあって、車輪が2軸ずつついているみたいだ、というような事を見ていればわかるわけです。車なら、前のタイヤが方向を決めるぞという事ぐらいは知っていますよね。そういうことが、こんなものをつくりたい、というときの蓄積になるわけです。
「いつのまにか知っている」ということを、大学になったら整理して、そういうものをもとに発想するという事です。
二つ目は、こんな発想がでてきたから、いざつくろうとなった時、どんな性能がでるか計算してみようといった時に、「全然数学ができません」、「まるでどんな動きになるか予想がつきません」、では困ります。数学といっても、単に式を解くのではなく、図形的要素、たとえば作図してコンパスで線を引いて交点がここだからというような幾何学的要素もできたほうがいいです。
先川原:根本の発想をするための日常の観察、と基礎学力ですか。
米田:せっかく思いついた事が、そこで進まなくなってしまいますからね。
先川原:今日は、興味深いお話が沢山伺えましたね。先生は、何でもご自身が、しっかり準備をされる、工夫をされる。
好奇心を持って、それを形にしていくロボット作り。そのためには、それができ得るように、日常生活で観察をして、しっかりと勉強する事が大切なようですね。どうもありがとうございました。