インタビューシリーズ:interview-06
- interview-21:「卒業生に訊く! -10- 」
- interview-20:「卒業生に訊く! -9- 」
- interview-19:「卒業生に訊く! -8- 」
- interview-18:「卒業生に訊く! -7- 」
- interview-17:「卒業生に訊く! -6- 」
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- interview-13:「卒業生に訊く! -2- 」
- interview-12:「卒業生に訊く! -1- 」
- interview-11:「海外留学インタビュー」
- interview-10:「実用化に適したロボット創りを目指す」
- interview-09:「超人技ロボット」の開発
- interview-08:「卒業後の進路は?」
- interview-07:「新しい教育スタイルへのチャレンジ」
- interview-06:「蝶型の飛翔ロボットの実現を目指して」
- interview-05:「完全優勝したロボカップジャパンオープン2009(ヒューマノイドリーグ)」
- interview-04:「興味から専門:ロボット創造」
- interview-03:「プロの夢 ―― 18mのガンダムをつくる」
- interview-02:「ロボカップヒューマノイドリーグへ向けて」
- interview-01:「入学後半年経た一年生にナマの声を聞く」
「蝶型の飛翔ロボットの実現を目指して」・・・菊池准教授に訊く
長い期間をかけて、環境と共に進化してきた「生物」の形態や動き研究をし、そのメカニズムを ロボティクスと融合させた新しい分野に挑む菊池研究室。今回は菊池准教授にお話を伺いました。
聞き手 | まず、先生のご専門、どんなことを研究されていますか? |
菊池 | もともとの専門はメカ屋さんです。具体的にはモノをつくる方ですね。たとえば鉄道を作ったり、車を作ったり、飛行機作ったりとか、機械屋さんですね。その分野の中で特に小さいモノをやっていて、基本は面白そうなロボットを作ったり、コンピュータの中で現象を再現したりしています。 |
聞き手 | コンピュータの中ですか? |
菊池 | ええ、例えば、蝶のロボットをつくるとなれば、実際に製作もするんですけど、コンピュータの中で飛ばすんです。コンピュータの中で空気とか実在するバーチャルな世界を再現するんです。蝶の翅(はね)を特定の材質でつくってバタバタとはばたくと空気が動いて、その揚力で浮くって言うバーチャルな世界を計算するわけ です。現実とほぼ同じ世界の計算をしますから単なる見た目の美しさのいわゆるCGとはまったく違うんです ね。数値計算力学ってやつですね。 |
聞き手 | その研究の成果を応用して現実の中で実際に利用していく。そのためのベースを研究していると理解していいですか?・・・バーチャルな世界で飛べるということは現実の世界で飛べるんですか? |
菊池 | はいそうですね。コンピュータの中で飛べるのであれば、その素材が現実に存在し条件が整えば現実の世界でも飛べるということになります。 |
蝶の飛び立ちの様子。赤い線は胸部の軌跡。腹を振りながら、翅の打ち下ろしで浮き上がり、打ち上げて前に進む。 |
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蝶ロボットの飛び立ちの様子。アゲハチョウとほぼ同じサイズで同じ重さ。 |
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聞き手 | 素材になる材料が現実的にはまだ無いんですね。 |
菊池 | 材料という意味は、たとえばいま羽とかは竹で作っているんですけど、そこに載せるモータが無いとか、動力がいいモノがないとか。現時点では動力はゴムを利用しています。あとはそこに載せる小型のセンサが無いとか。そういう世界ですね。 |
聞き手 | なるほど。じゃあ今は研究が先行してあとからそういう材料が開発され追っかけてくるということですかね。 |
菊池 | そうですね、小型のセンサを作るのは僕の仕事ではないので、誰かが作ったものを載せるか、共同研究者にやっていただくか。 |
聞き手 | なぜ蝶に着目したんですか? ロボットというとメタルでゴツゴツした固いイメージですし、蝶ってしなやかで優しい感じがして意外でした。 |
菊池 | まず、飛ぶものを創りたいというのがあった。ヘリコプターに手を付けてもいいですし、ジェット機に手を付けてもいいんですけど結局、スケールが違えばいろんなことが違いますよね。でっかいジャンボに手が付いていたとしますよね、ジャンボってある空間に止まることはできないから飛び続けないと浮かない。途中にピタッと止まるのをホバリングって言うんですけど、ヘリコプターのタイプは止まれますけど、制御が難しいとか、いろいろ一長一短があります。その中で昆虫って垂直離着陸や直角に近い旋回、障害物などの隙間をぬう高速移動など、とても真似をし難い優れた運動性能をもっていますよね。未知の部分が多い昆虫のメカニズムを解明してロボットに応用できないだろうか?小さい昆虫サイズで何か面白いモノつくれるかなと。 |
聞き手 | そこで研究対象として蝶が登場するわけですね。 |
菊池 | それで、昆虫といってもいろんなサイズがある。飛ぶのはたとえばトンボをあるでしょうし、蝶もある、ハエもあるし、蜂もある。いっぱいいろんな種類がある。運動性能で言ったらハエがいいんですけど、まだまだハエとか蜂とかってそこにどんな動力つけんの?とかどんなセンサ付けんの?とか考えたときにまだまだ小さいですよね。質量が何十mgの世界なんで。蝶だと約500mgぐらいなんですよ。1円玉の半分ぐらいなんですね。1円玉の半分ぐらいだったら今の技術で何とか飛んで温度センサ1個ぐらいなら付けられるのかなと。ぎりぎり小さいサイズってことでトンボか蝶ってことなんです。 |
聞き手 | 昆虫の中では蝶がより現実的なんですね。 |
菊池 | そうですね。でもハエで研究している人もいるんですよ。 |
聞き手 | あの高速の動きをするハエですか! |
菊池 | まだ飛ぶにはいたっていないんですけど、ハエロボットを創ろうとしている人は世界にけっこういっぱいいますよ。ですから近い将来、農園で蜜を集めたり受粉させたりする蜂ロボットや、倒壊現場などで飛びまわって救助活動を支援する蝶ロボットやトンボロボットなど当たり前のように見られるかもしれません。 |
聞き手 | 大変興味深い話ですね。 先生の研究室のサイトを拝見したんですが、表のページに知能と形態って筆書きであるじゃないですか、あれは先生が書かれたんですか?風格のある字だから菊池先生の恩師からの贈り物かなと思ったんですが。 |
菊池 | あれは英文のページの草書が僕が書いたもの。日本語のページの楷書は親父が書いたものなんですよ。僕は小学校時代にやっていただけで親父も手習いなんですけど。 |
聞き手 | そうなんですか。あの知能と形態って文字ですが、先生が目指していることは知能と形態という両方のバランスをもって新しい機能が生み出される、創り出されるということを原理に昆虫を通して研究をされているということなんですね? |
菊池 | その通りです。 |
聞き手 | 菊池先生は小さい頃からロボットがお好きでしたか? |
菊池 | はい、そうですね。その辺の子供と同じぐらい好きでしたね。ちょうど幼稚園ぐらいのときにマジンガーZの世界ですかね。鉄腕アトムの次の世代ですね。 |
聞き手 | 本格的にロボットの勉強をされたのは大学生になってからですか? |
菊池 | そうですね、ロボットの本格的な勉強は大学に入ってからです。機械科の中の先生がロボットをやっていたので、そこに進んだのが大きなきっかけですね。研究していた頃は100%ロボットではなかったんですけどね。 |
聞き手 | じゃあもともとロボットがお好きで機械をつくることもお好きだったんですね。経歴を見させていただいたんですが大学を卒業し企業に就職されていますよね。 |
菊池 | はい。企業にいた時代は研究というより生産技術の方でライン上の製品の検査装置の設計をしていました。その後退職し大学の博士課程にもどりました。その頃は、大学に残る気はなかったですね。もう一回就職して企業の研究所とか国の研究機関に行こうと思っていたんです。だから正直教育機関はどうかなとその時は思っていたんですよ。 |
聞き手 | そうなんですか。学内でお会いするといつも菊池先生のまわりには学生さんがいて、わきあいあいと明るい雰囲気で、慕われているんだなと見ていたんですが。 |
菊池 | それはきっと食事に行くときですね(笑)。みんなで食べに行ってるんで。 |
聞き手 | みんなでわいわい食事に行く先生ってなかなかいらっしゃらないんじゃないですか? ところで先生のご趣味はなんですか? |
菊池 | 趣味ですか、好きなものはいろいろあるんですよ。音楽も好きですし、読書するのも好きですし、絵を描いたりするのも好きですし、あとスポーツも好きなんですけど。今忙しくてほとんどできてないですね。 |
聞き手 | 日曜日とかも研究や学校行事や専門学会などありますからね。 研究室の学生さんに日頃どんなことを希望されていますか? |
菊池 | 毎年、研究室募集のときに「熱い魂をもった者求む」って書いてるんですよ。 |
聞き手 | 「熱い魂の人」ですか(笑)!?それは向学に対して? |
菊池 | いえ。向学だけじゃなく全般に対してですね。熱い魂をもった人、これこそが大事かなと。 |
聞き手 | 今の研究室の学生さんはどうですか? |
菊池 | みんな熱いですよ。表に出すタイプと内に秘めるタイプといろいろですが。 |
聞き手 | 菊池先生からみた未来ロボティクス学科の魅力ってなんですか? |
菊池 | 魅力ですか、う~ん、仲のいい学生達が多いですね。横のつながりも縦のつながりも他の学科よりは強い感じがしますね。 |
聞き手 | わたしもそれは感じますね。その理由は何かあるんですかね? |
菊池 | まず、いっしょにいる場所があった、いっしょにいる時間が長かったからでしょうね。新1号棟ができるまで11号館(芝園校舎)ってプレハブみたいなのがあるですけど、その一室が未来ロボティクス専用になっていて未来ロボティクス以外の授業はやってなかったんですよ。だから未来ロボティクスの学生はそこに入り浸っていたんですね。 |
聞き手 | 四六時中いっしょだったと。 |
菊池 | 他の学科ってそういうホーム教室みたいのがなかった。だから普通は授業受けたら次ぎの授業いって終わったら帰るって感じなんですけど、未来ロボティクスは食事のときでも何でもそこの教室にいれば誰かが集まってくる。それで横のつながりが強くなったんですね。 |
聞き手 | 結果としてその環境が良かったんですね。プレハブが(笑)。 |
菊池 | そういうホーム教室みたいのが良かったんでしょうね。他の学科もいいみたいだからやりますかって今やりだしているみたいですね。その他にある先生が緻密なグループ分けをして、工作や実験とかやるときに4人のグループと8人のグループを分けてやっていますね。仲のいいグループは最後まで仲いいですね。仲悪いグループは「早く変えてくれ」って(笑)。 |
聞き手 | それは人間関係を学ぶにはいいですよ。社会に出ると好き嫌いは別にして人との関わりが全ての始まりですからね。そうすると菊池先生が思う未来ロボティクス学科の魅力は縦横関係なくみんな仲がいいということですね。 |
菊池 | あと教員目線で言えば、他の先生方も同じ事を言われると思いますが、カリキュラムもいいですよ。3年生から研究室に配属されるとか、週2回集中的な授業があるとか。普通1、2年って一般教養をみっちり学びますよね。「工学部に入ったのに何で一般教養ばっかりなんだ」って嫌になる場合が多い。それを1~3年に分散したり、いろいろな試みを試行錯誤してやってます。教員の負担は大きいです。でも何とかやっています。 |
聞き手 | 菊池先生の研究室は男性とか女性の向き不向きとかありますか? |
菊池 | 昆虫を扱っている研究が何個かあるので、昆虫嫌いだから嫌だって女性は過去にいましたね。足が6本あるのは何でも嫌いとか。そういう学生はいました。逆に昆虫好きだって入ってくる学生もいます。 |
聞き手 | ロボット学科なのに蝶っていうと女性にも受け入れられやすいのかなって思うんですけど。 |
菊池 | 人によりますね。あとはモノを実際に作ることが好きな人、コンピュータでシミュレーションやりたいって入ってくる人もいるし、いろいろです。あとは遠いビジョン、はるか先じゃないと人の役に立たない研究なんで世の中に直接的に役に立ちたいっていう人にはきついかな。 |
聞き手 | 最後にこれから受験を目指そうという高校生のみなさんにメッセージをお願いしたいんですが。 |
菊池 | それこそ「熱い魂をもった者求む」です(笑)。それから「折れない心」です。 直接的に何とかの微分解けて欲しいとか、何とかの方程式を理解するとかも大事だし基本なんですけど、一番大切なことは、学ぼうとしたときに「もう出来ないや」って投げ出したら前に進めない、そういう意味で「折れない心」です。 |
聞き手 | なるほど(感嘆)。 |
菊池 | 例えばですね、ここの蝶が羽ばたくシミュレーションしようたときにすごく複雑な数学が必要なわけです。あるAっていう式を解くときにBっていう式を知ってなくてはいけなくて、それを理解するためにCを知らなければいけない。ABCDEFGHぐらいまでいかなければいけない場面がある。そうすると一歩ずつ進んでいってAまで辿り着かないといけないんですね。その途中段階で折れちゃいけないんです。もう無理です、僕にはできませんってなったら研究が進まない。折れない気持ちとか、絶対やってやろうって熱い魂が必須条件かなと思います。 |
聞き手 | すごくわかりやすいですね。逆に言えば、その気持ちさえあれば多少の問題が解けなくても何とかなるってことなんですね。日頃お世話になっている「はじめ研究所」の坂本氏も同じ趣旨のことをおっしゃっていますね(サイト参照)。 |
菊池 | 今現在の能力は問いません。なんか出されたとき、出された課題はやり遂げる「折れないハートを持って来てくれ」と言いたいですね。 |
聞き手 | 本当に良く解りますね。「熱い魂」と「折れない心」っていうのは、何の分野においても物事を達成するための必須条件だと思います。 |
菊池 | ガンダム好きですとかをきっかけとするのはいいでしょう。じゃあ実際にガンダムつくろうかと言ったときに、センサの勉強しなきゃいけない、力学の勉強しなきゃいけないとか、モータの制御方法勉強しなきゃいけないとか、だんだんやんなきゃいけないことが分かって来ると「や~めたって」人が多いように思います。 ぜひ「熱い魂」と「折れない心」できてください。 |
聞き手 | より具体的なアドバイスをありがとうございます。菊池先生の熱い魂をしっかりと受け止めました。 本日は興味深いお話をわかりやすくフランクにしてくださり、ありがとうございました。 |
(参考ページ)