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インタビューシリーズ:interview-20

「卒業生に訊く! 」 未来ロボティクス専攻1期生の山下さんに就職してからの今を訊く


聞き手:今日は,社会で活躍している未来ロボの卒業生に様々なお話を伺いたいと思っております.現在就活中の後輩たちに先輩としてエールをお願いします.では,まず,自己紹介をお願いします.
山下さん:山下です.2010年度未来ロボティクス専攻修了で,現在はグラフテック株式会社で働いています.もうすぐ5年になります.
山下さん

聞き手:山下さんは大学院の1期生ですね.未来ロボの大学院は,学部の完成年度を待たず1年前倒しで出来たので,学部の1期生と大学院の2期生が同級生ということになりますね.当時大学院の1期生は他学部の学生たちで構成されていました.山下さんは,機械サイエンス学科を卒業して,大学院の未来ロボティクス専攻に進学したわけですが,まずはこの辺の経緯からお聞かせください.
山下さん:まず,大学院への進学理由ですが,学部時代から蝶ロボットの研究をしており,時期的に研究の面白さが徐々に分かりかけてきた頃でした.はばたきロボットの翅が2枚モデルから4枚モデルになり,より詳しくメカニズムを解析できるようになりました.飛翔メカニズムをより深いところまで調べてみたいと思ったのがきっかけです.未来ロボティクス専攻以外にも機械サイエンス専攻へ進学することも出来たのですが,ロボットに関する専門知識,特に自分の研究にも関係する知識を学びたいという思いから未来ロボティクス専攻に進学することにしました.
専攻での講義で一番印象に残っているのは,やはり自分の研究に関連する生体流体特論でした.流速の遅い,もしくはほぼ静止に近い流体だと,現象がこんなにも複雑になるものかと驚きました.普段,飛翔実験で蝶やロボットがしていた挙動が、計算とシミュレーションによってどのように解析されるかということを学び,講義を通じて自分の研究への理解がさらに深くなりました.
聞き手:小さいサイズの遅い流れは,メートルサイズの我々には分かりにくいですからね.ジェット機と違って,ハチぐらいになると自分の体より小さな翅で飛び回りますし,ウィルスサイズになると浮遊するのに翼すら要りません.
さて,そんな一風変わった生体流体の世界を学んだ後は,ご自身の研究はどのように発展したのでしょうか.
山下さん:解析した飛翔メカニズムを実際のロボットに実装することを試みていました.蝶のはばたきを高速度カメラで撮影して画像解析し,コンピュータで運動をシミュレーションして重要な飛行パラメータを見つけ出し,ロボットで実験,検証してみて,という感じです.
聞き手:当時は博士課程の学生と共同で研究をしていたと思いますが,どのような思い出がありますか.
山下さん:一緒にもくもくと翅を作っていましたね.体の構造は単純でも構造パラメータはいっぱいあるので,飛翔パラメータと相関があるものを見つけ出すのが大変で,めぼしを付けたパラメータが正しいことが示された時はとても喜びました.やっと修士論文を書き上げ,何度も見てもらいましたが,その都度修正で真っ赤になって返ってきてきました.どうまとめれば人に伝わるのかを学びましたね.
それから,もともと人とのコミュニケーションが苦手だったのですが,先輩方に「食事のときに話題をふれる人になろうキャンペーン」をやってもらい,この経験でだいぶ人前で話せるようになりました.研究室の皆で食事をするときに「本日の山下君のコーナー」で趣味のB級映画をいろいろ紹介しました.他の先輩や後輩も飛びついてきて,研究室内で超B級な映画のDVDを誕生日にプレゼントするという文化も出来上がりました.
聞き手:いい経験でしたね.のめり込める趣味が一つでもあると人とのつながりは広がっていきます.学生時代,友人が「趣味を三つ持っていると,だいたいの人と共通の話題が作れるよ」というようなことを言っていましたが,分かる気がします.
山下さんの二つ目の趣味は,射撃でしたね.射撃部ではどのような経験をされたのでしょうか.
山下さん:会計をしていました.他大学を含めた関東射撃部連盟の行事では,会場運営や企画,ホテルの予約とか,様々な人たちと協力して大会を成功させなければならず,これは大きな経験でした.
聞き手:そうですか.先日,大学の祝勝会で射撃部も表彰されていました.後輩たち,頑張っているようですよ.
山下さんは当時の成績,どうだったのでしょうか.
山下さん:510点ぐらいでした.
聞き手:510点...さて,510点とは,いったいどれぐらいなのでしょう?
山下さん:1時間45分以内に60発撃って中心を射抜いて一つ10点.Finalに進む人は,ほとんど9点か10点だけなので570~580点になります.
聞き手:......そうですか.「そこそこ」だったのですね....ぜひ,これから三つ目の趣味を作ってください.
では,次に,現在の仕事のお話を聞かせてください.2011年の入社ですので,震災直後で大変だったと思います.
山下さん:入社自体は特に混乱はありませんでした.4月中は研修,5月に配属でした.
聞き手:それはなによりでした.
山下さん:弊社では,カッティングマシン,計測機器,ラベリングマシン,スキャナ,プリンタを開発しています.私は5年間で2製品,カッティングマシンとラベルプリンタに携わりました.
カッティングマシンは一言で言うと「切り絵を自動で行う機械」です.薄い材料,紙やフィルムを切ることを得意としていますが,コート紙やダンボールを切断したり,折り目を付けたりもできます.
聞き手:飛び出す絵本も作れますね.
山下さん:石碑の彫刻のときのマスキング用ゴムもこれで切れます.
商売は,B to Bがメインです.
(B to B (Business to Business): 消費者向けではなく,企業間取引を指す用語)
山下さん

現在は,ラベル印刷,ラミネート貼り,任意形状カット,不要面除去を一括に行うラベルプリンタに携わっており,主に,ラベルの画質作成に係わる業務を行っています.画質作成では,複数のパラメータを変更し,印刷物の評価をしていきます.そして,環境試験やランニング試験を通して,画質に影響を与えるパラメータをひとつずつ取捨選択して,満足いく画質が得られるようにします.こうしてみると,学生時代の研究ととてもよく似ています.ですが,1回良い画質が得られればそれで良いわけではなくて,数千枚,数万枚印刷してもその画質を継続できる,もしくはある水準の画質を保つことの出来るパラメータを模索する必要があります.画質の継続性というか耐久性のようなものですね.
耐久性といえば,レバーやボタンなどの人が操作する部品の耐久試験もよく行っていました.
これは,学生時代にはあまり考えていなかったことでした.
聞き手:学生は耐久性を殆ど考えないですね.特にロボット学科の学生は.
偉い方が,「カゲロウマシン」と呼んでおりました.すぐに壊れる儚い機械だそうです.
山下さん:耐久試験でよく覚えているのは,同じ樹脂部品でも切削品と成型品で違うということです.試作品は,最初に樹脂の切削でつくり,その後成型品になるのですが,成型品で行わなければならない耐久試験を切削品で行ってしまい,やり直す破目になったことがありました.切削品と成型品で部材の強度が同じとは限らないからです.試作ものではうまくいくのに,量産ものではうまくいかないことがざらにあるということを学びました.
聞き手:これは学生ではなかなか学べないですね.今度はぜひ大学の講義で「失敗から学ぶ山下君のコーナー」をお願いしたいところです.いい話,ありがとうございます.
グラフテックさんには,研究室の先輩もおりますし,未来ロボの同級生もおります.切磋琢磨しながら会社で活躍していただければと思います.
では,最後に後輩たちに向けてメッセージをお願いします.
山下さん:大学で培ったものはなんだろうと考えたときに,物事を論理的に考える力だと思いました.研究室で,研究をやっていて身についたものです.これは,技術職の一番の武器になります.
せっかく数年間も研究室で自分の一番の力になるものを磨いているのですから,これを糧に研究も就活も頑張ってもらいたいと思います.
聞き手:本日はお忙しいところありがとうございました.活躍を期待しております.未ロボ出身の皆様にも宜しくお伝えください.