「インタビュー 上田先生に訊く」上田先生と上田研は謎が多いのですが II

前回に引きづつき、上田先生にお話を伺います。

研究室では何を?

上田先生は大学の研究室として研究を追及している事ってなんですか?

上田: 私ですか?私が。

訊き手: シェル芸はまた別です?

上田: シェル芸ではなくて、こっちですね。確率ロボティクスですね。元々専門って言ったらこれですね。確率論でロボットを動かすという事です。

何故、確率論がロボットに必要か。なんででしょう?

訊き手: 何でですか?

上田: 例えばロボットがカメラで周りをパッと見ました。さて何処にいるんでしょうかって言った時にこの建物は皆、部屋の形が一緒ですね。私の部屋かもしれないし、太田先生の部屋かもしれないし、藤江先生の部屋かもしれないし。三分の一の確率で、どこかの部屋にいるという話になる。じゃあ、その三分の一という知識に、別の知識を混ぜて、どれかを1にして他をゼロにすれば自分の位置がわかるという事じゃないですか。

その為にどうするかって言ったら廊下に出るとか周りをもう少し観察するとか。わかんないと動くんですね。人間は。ロボットもそうした方が良い。

1995年あたりからドイツの先生達がこれやり出して、皆偉くなってスタンフォードとかに行ったんですけど(笑)

で、2005年にその先生たちが英語の教科書を出して。その前にロボットモーションプランニングって凄い有名なロボットの教科書があったんですけど、それと同じくらい必読の教科書になりました。

その教科書が出た時に、私まだ27でしたけど、その研究の一部は23歳くらいからやってたので、これ見た時にあっ翻訳しようって思って一人で翻訳したんです。

訊き手: はー。

上田: 実はこの分野はfuRoの友納先生が日本の第一人者なんです。翻訳するときに少しだけですが面識のあった友納先生に相談すべきだったのですが、若いから一人でガメちゃって一人でやっちゃって・・・

もう、翻訳したいと思ったらもうすでに手が翻訳を始めちゃってて、私からいくつか出版社に接触して出版が決まって・・・

翻訳している時、何が辛かったって、自分がこれやっていいのかなあと後ろめたい気持ちで。

訊き手: へー。

上田: この確率の話は、僕が卒論やりつつ先輩の仕事を引き継いで実装していて、その時国内でやってたのが阪大の三浦先生と友納先生と僕とあと何人かて言うような状況だったんですけど。今もうみんなこれですね(笑)

訊き手: そうすると上田先生の師匠ていうのは誰先生なんですか?

上田: 師匠というニュアンスだと、当時博士の学生だった、静岡大学の小林祐一先生です。指導教官については、学部は湯浅秀男先生、修士は太田順先生、博士以後は新井民夫先生です。研究室は変わったわけではなく、同じ研究室にいて。

訊き手: その先生もロボット?違うんですか?

上田: みなさんロボットの先生です。研究テーマは、小林先生のチームから卒業していく先輩のを引き継いだものが多いです。

訊き手: はい。

上田: ただ、何かこれをやれと強制されることはなかったです。今の私も、学生さんには自由にテーマを選んでもらってます。

訊き手: なるほど。

上田: 学生の時の私はもう、好き勝手やってたって感じですよね。ええ。

訊き手: う~ん。

上田: で、新井先生に「こんなん考えましたー」って数式を殴り書いた紙を持って行って教授室に乗り込んで行って、「わからん」って言われて、「先生なのにわからないの?」みたいな。私の説明が悪いんですが。すごい失礼な学生(笑)

ただ、その後こってりとディスカッションさせていただきました。あと英語も泣かされながら直接指導を受けましたので、私の何が運がいいかっていうと、そういう教育を受けたことですね。

訊き手: え~なるほど、なるほど。

研究室っていうと、だいたい先生が研究されてることを学生もさきに興味があって、そこいって勉強するって感じですが。

上田: 僕それやっても、いいことはないんです。5年ブランク空いちゃったので、若い人の視点でテーマを見つけて、それを自分の馬鹿力で補うという作戦以外、ないんではないかと。ブランク以前も事務仕事ばっかりでもう、化石研究者ですよ(笑)

訊き手: う~ん。

上田: 今とは忙しさのレベルが違う、えぇ、レベルが違いますんで(笑)

鼻血出そうな位、忙しかったんで。で、プレッシャーがすごかったですね、はい。

訊き手: う~ん、う~ん。

上田: そして同じ忙しいでも、みんなこう、同じ事やってるのと、隣の研究室に遊びにいったら全然違う事やっているのとじゃ、もう全然違いますもんね。

訊き手: あ~なるほど、ん~。

上田: やっぱり、ロボティクス学科って、すばらしいんですよ。統一感が。

訊き手: あ~なるほど。

上田: そうなんですよ。だから働きやすいです。

訊き手: あ~なるほど。

上田: で、話を戻すと、今の研究テーマについては、翻訳した手前とりあえず確率ロボティクスと。

訊き手: う~ん。とりあえずですか?

上田: いや~でも~ほんと、だから、5年いないともう僕の知識なんかもまったく役に立たないんですよ。ほんとに。教えるくらいは出来るんですけど、要は世界で戦おうと思ったら、今の僕のレベルじゃもう全然だめです。

ほんと今、ヒィヒィ言いながら論文書いてて、まったく戦えない事はないですけど、しんどいです。研究のトレンドも変わっちゃってるし、ロボット動かすのも、どんどん難しい事しないと、またそんな簡単な事やってるのって言われるし、厳しいですね。うん、でもこれは一番高いレベルで戦おうとしているから言っていることであって、泣き言ではありません。現状確認ができないとダメです。

専門が麻雀からロボットになった学生時代

訊き手: もともとはこういったロボットに関連するいろんな研究をして行きたいなっていうのは、いつ位から芽生えてたんですか?

上田: そうですね、う~んと・・・学科は精密機械工学科で、麻雀バカだったので成績ビリで滑り込んだんですけど、その中で何をやるかな~っていったら、ソフトウェアなんだけど、やっぱり、体があると無いで、出来ること違うんで、プログラミングはやりたいけど、ロボット使ってやりたいなと・・・

訊き手: あ~なるほど、そこが繋がるんですね。

上田: そうですね。えらいもんですよ、もう4年の時に、配属された時に、やっぱりこれからはハードウェアとソフトウェアを融合させて、もっと面白い事しないとアカンと思うんですよっみたいなことを生意気に言ってて(笑)

訊き手: なるほど。

上田: やってた事はずっと、RoboCupでAIBO動かしてただけなんですが。ええ・・

訊き手: RoboCupは学生さんの時から?

上田: そうですね。4年のときから。だから私、RoboCup生抜きの教員です。

訊き手: え~え~

上田: 林原先生はもう先生だったから、学生からずっとやって、大学の先生やってる人間はそんなにいないんで、ちゃんとしてないと(笑)

そんな感じですね。

訊き手: そうすると、大学生になってからって事なんですかね。

上田: そうですね。コンピュータ触ったのも大学に入ってからで、Software Designで、何月号だっけ、インタビューが載ったんですけど、そのシリーズ二十何回続いてて、インタビュー受けた中で僕が一番コンピューター触ったの遅かったんです。みんな小学校の時からやってましたとか言ってて・・・

なんで本読まないでそんなもん触ってんのって正直思いました。僕が言うの何ですけど(笑)

えっと、ちょっと待ってくださいね、2月号。2006年2月号・・・2016年・・・?

訊き手: あっ若い、これ去年ですか、今年?

上田: 今年(2016年)です。若い格好をしてる、顔にも力をいれてる。

訊き手: ビールを飲んでるし。これをちょっと参考にさせてください。

上田: どうぞ、お貸しますよ。

訊き手: お借りしていいんですか?ふ~ん・・・。

他の先生が、世代的には、いろいろ、なんだろ、アニメの話を振ると、ガンダム世代とか、あと何とかって言ってたな、結構なんか幅広くしていらっしゃって、やっぱり物作りが凄く好きで・・・

上田: そうですね。

訊き手: あっやっぱり一緒ですか?

上田: いや、文学青年だったんで。筒井康隆とか安部公房とか寺山修司とか(笑)

僕は作らない人なんで、学生がCADいじって作ってるの見て、わ~すごいなぁって(笑)

すごいんですよ、みなさん、すごいんです。私は古いカリキュラムの人間なんで、製図も手でやったし。課題はいつも一番先に終わってましたけど(笑)

訊き手: え~え~

上田: 何か作るっていったら逃げてたし。

訊き手: ずっと神奈川ですか。

上田: 住んでるのはずっと神奈川ですね。

訊き手: 出身も?

上田: 出身は富山県ですね。西の端の農村。

田舎です。田舎だから、コンピューターなんて情報が無いので触れません。

訊き手: 話題を変えて、ありきたりな質問をいいですか?

研究室はどんな人に来てもらいたいですか?私の後ろに高校生や中学生達がいるって感じで。

上田: はい、なんでも来いです。幅広く対応できます。勉強できる子にも、できない子にも幅広く対応できる・・・

訊き手: はは。なるほど。

日経Linuxの連載は、ラズベリーパイでなんとかという・・・

上田: ラズパイですか?(箱を取り出して)ラズパイは、学生にすぐあげちゃうんですよ。買っても買っても・・・

これ一個一個がラズベリーパイです。これ一個が6千円位ですかね。6千円位で買えて、これが何かっていうとコンピューターです。えっとこれ(ノートPC)と同等です。これがLinuxで動くんですね。これがあの~全部電圧で信号出せるピンで、これロボットにつなぐと、どうなるかっていうと・・・あっ・・・これは写真で見せましょう・・・こんな感じで、ロボットになるわけですね。

訊き手: え~え~

上田: 私は工作しないので、このロボットについてはハードウェアの設計は私関与してないんですけど、RTさんっていう会社の人が作っていて・・・こんな感じで動きます・・・どれが一番面白いですか。これ、あのそこの廊下で走らせたやつ・・・壁づたいに行くんです。

訊き手: ほ~ほ~

上田: ギリギリ・・・

訊き手: なるほど、ギリギリ・・・

上田: で、このセンサーで制御して・・・

訊き手: 制御してるんですね。なるほど。

上田: ちゃんと計算してプログラムしたわけじゃないんですけど、カンで(笑)

訊き手: なるほど、へ~、すごい・・・

上田: 最後ぶつけるっていう(笑)

訊き手: これなんですね。

上田: Linuxを使うとセンサとモータのついたものもプログラムから簡単制御ができる、というような話を連載でしてました。それは一般の読者さん向けに、ホビイスト向けですね。

で、今度出る本はこれを大幅に強化したものです。こちらは大学生を恐怖に陥れるほど厳しい内容です。

訊き手: おお。

中高生は何をするべきか

次、何質問しようかな(笑)なんかすごく文章にすると難しいような感じになってきました。

上田:
専門的な事になると難しい(笑)

訊き手: そうですよね。すごく・・・

上田: 新橋の変な人の話でも(笑)

訊き手: いえいえ、全然そんな・・・。え~と~、若い子たち高校生とか中学生の子たちに伝えたい事って何かありますか。

上田: 高校生、中学生ですか?まあ、当たり前ですけど、しっかり勉強してください(笑)

で、そうですね、そんなに長く言えないので、言葉を選びだすとすごく悩むんですけど・・・やっぱり、抽象的に物事考えるっていうの大事で、数学ですね。で、1年の時からロボット触るっていうのがいい事だとは言ったんですけど、やっぱり物を見て組み立てるのって、限界があるんですよね。それ以上なんか、新しいことやろうとした時に、頭の中でいろんな事考えなきゃいけないんですけど、そういう時に物理とか、数学とか、国語もそうですね。効いて来ます。

学校の勉強っていうのは、ちゃんと考えられてああなってるので、しっかりやって下さいっということですね。作りたいんだったら、うちの学科くれば、そこからスタートでも、私個人としては構わんと思ってるんで・・・しっかり勉強してほしい。

訊き手: う~ん、なるほど。

上田: いろんな情報入りすぎるんですよね、今。ああいうことやっておけば受験や就職に有利だとかそういう話になるんですけど、やっぱり学校の勉強をしっかりやっといて・・・が大事。応用は、まあ、間に合うので、後からやっても・・・

で、私とかコンテストによく出てるので、コンテスト万歳人間のように見えるんですけど、コンテストは何か目的があって出るものなので、そういう所で活躍してても大人になってから、あんまりっていう場合もあるので(笑)。なにしろ17年関わってましたので、正直に厳しく言わなければならない立場だと思って言いますけど。

あんまりこの学科の志望者には、言いにくいんですけど、要は、コンテストって勝とうと思えばいくらでもその最短距離でいけるので。で、最短距離選んで勝つこともすごく大事なんですけど、決められたルール、決まってるとこで最短距離で行ってもいろんな事できる人間にはならないので、そこは注意したほうがいいかなって思うんですね。

で、飛躍しますけど学校の勉強をしっかりやると(笑)

訊き手: そこ大事ですね。おっしゃる通りだと思いますね。なんか、これからこの研究室でこの先、将来的に目指してるとことかってあるんですか。

上田: 将来的には何かまあ、そうですね、その話の延長なんですけど、やっぱり学生さん自身が、いろんな事を発信できるようになって欲しいなあというのがあるんですね。

作ってるだけで満足しちゃうんですね、みんな。そうじゃなくて、これ何の為にやっていて、誰の為に、で、どれだけ金になるか。そういうような事をちゃんと自分で説明して。とにかく、そういう事が出来る人、できるようにみんなを仕向けて、その結果なんか、面白い事が出来ればいいなあと思ってるんですね。

理屈の難しいこともやりつつ、まあブームみたいなものを作ってくと面白いかなぁと思ってるんですよね。例えば、小中学生向けにこの前講習会やったんですけど、ちゃんと五教科勉強しろとかいいつつ、そうじゃない事やってて、ちょっとあれなんですけど(笑)

ええと、タミヤのマウスの模型を改造して、デジタル回路の勉強をしてもらおうと。学生さんに設計してもらいまして。みんな勘が良くてですね、これ技術的にも結構面白くて、部品点数最少なんですよ。これ以上簡単にならないですよ(笑)。マウスの上に乗っちゃうから、3千円位で作れちゃうので、子供に持ち帰ってもらえるんですね。

で、作っただけじゃダメで、学生さんにちゃんとウェブサイト作って、説明をちゃんと書いてってお願いしてやってます。作ったらちゃんと説明書かないと誰もできないでしょと話しをしていて、そのへんの、記述力をちゃんと鍛えるということですね・・・。あと、最近だと動画作成能力も。YouTuberになれとかよく冗談言ってますが。

訊き手: なるほど。

上田: 最初にオープン系って言いましたけど、こういうのをしっかり発信して、面白い事やってるね、と口コミで広がっていくのが、その世界の流儀です。国がなんか計画を立てて、というのと正反対の世界。面白い事を誰かがやっているとわーっと人がやってきて、もっと面白くしてくれる、そういう世界なので、そういうのも着火点になれるようにして欲しいなと。そういうものが、ぽんぽんぽんぽん研究室から出ていけばいいなと思ってるので。

訊き手: たしか以前に「オタクで終わらせない」と、どこかで書かれていたのですが、そういうことですよね?

上田:そういうことですね。いやオタクでもよくて自分も大概オタクなんでお前が言うなって感じですけど、やっぱり何がおもしろいのかちゃんと、お客さん相手に伝えないといけない。

訊き手:そうですね。

上田: 大学の研究室でやることって社会で役に立たないみたいな論調ありますけど、オタクに走っちゃうとそうなっちゃうんですね。そうじゃなくて、ちゃんと発信しようとすると、結局論文のフォーマットになるんです。結局それが一番洗練した形なんですね。だから、論文の書き方をちゃんと教えれば、それも出来るようになる。ので、だからやっぱりそこが一番大事かなって思ってるんですよね。サラリーマンやってたとき、自分のやりたいことややったことを伝えられない人が大半で残念な場面を大量に見ました。逆に何にも考えてないゆえに舌ぽう鋭い人が目立って無意味に評価されることもよく目にしますけど、ものすごい社会的損失だなと思って。学問が役に立たないと思っている人は、自分自身が無駄に溢れていることに気づいてないんです。

「スポーツは?」「囲碁やってました」

訊き手: 何か運動とかされてましたか?

上田: ぜんぜんしません(笑)。中学校の時、バスケ部でしたが、去年スポーツフェスティバルに駆り出されて、2分走ったら足もつれて動かなくなっちゃって。シュート打ってもなんか2メートルくらい手前で落ちるし。ダメ。

訊き手: そうすか。なるほど。

上田: 部活動でいうと高校ん時に囲碁を始めて、富山県やる人全然いなかったから初段で県代表になりました。先輩によると2段くらいの強さはあったそうですが、単なる初段です。けど、女子の部に五段の子がいて、全然勝てなかったから何が県代表かっていう話ですけど。
男子と女子に分かれていたので、どっちが本物の代表ってことは無いんですけど。

訊き手:あーへー。なんとなく煮詰まってきましたね。大体聞きたいなって思う事は聞かせて頂いたんでこのへんで終局ということで。

上田: はいどうも〜。

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