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インタビューシリーズ:interview-16

「卒業生に訊く! 」 未来ロボティクス学科1期生の吉澤さんに就職してからの今を訊く


聞き手:社会で活躍している未来ロボの卒業生に様々なお話を伺う「卒業生に訊く!」,シリーズ第5回ですが,今日は,1期生の吉澤さんに来ていただきました.
現在就活中の後輩たちに先輩としてエールをお願いしたいと思っております.
ではまず,自己紹介からお願いします.
吉澤さん:KOA株式会社に勤務しています吉澤です.
学部時代は4年間寮生で,大学院時代は2年間ルームシェアをしていました.
吉澤さん
聞き手:遠い方の寮(千草寮)ですね.今は,新習志野キャンパスにとてもきれいな寮が出来ています.
さて,会社に関しての質問からですが,どのような仕事をされているのでしょうか.
吉澤さん:担当業務としては,生産設備設計開発です.生産工程の設備改善,品質保証用検査装置の開発,新製品用新規設備の開発を行っています.検査装置では抵抗器の仕上がりを画像処理で調べています.図面を書いて,発注して,組み立てて,調整をする,といった機械設計が担当です.KOAの設備製作は,1テーマにつき2名(機械担当,電気担当)で行っています.設備運用の提案,仕様決定,設備設計,動作調整,生産工程への運搬設置,品質検証など一貫したものづくりが特徴となっています.
聞き手:生産技術ですね.機械系の王道です.
貴社は,抵抗器など,電子部品の製造がメインですね.自動車,AV家電,通信機器,いろんなところに使われています.

学生時代では,精度や寿命,特にコストなどあまり気にしないで設計していたと思いますが,会社での設計で一番違うところはどんなところですか?
吉澤さん:学生時代は,思いついたときにやって,好きなときに作ってでしたが,社会では通用しないですね.品質保証,長期稼動,使いやすさ,特に,価格,スケジュールは外せないです.使う人が怪我をしないように安全なものを作るのも重要です.製図でも表面粗さは基本.学生時代は考えていませんでした.会社は何でもいい世界ではないです.学生時代の設計では,シャフト(軸)にアルミ材を使っていました.金属の知識がなかった.一発動けばいいや,制御でごまかせばいいや,でした.今思うと恥ずかしいです.焼入れしていないシャフトとか“なし”ですね.
聞き手:学生の中には,ねじをシャフト代わりにするのとかいますよ.はめあい(軸と穴の寸法公差)とか無視ですね.ガッタガタです.
吉澤さん:精度とか出すためにベアリングを選ばなければならない.位置決めピンの重要性とかも会社に入ってから理解しました.自分の作ったものに対する責任感とかは学生時代とはやっぱり違いますね.
聞き手:吉澤さんは,就職で地元に帰る「Uターン就職」をしたわけですが,学生時代,いつごろ決断され,どのような就職活動でしたか.一期生ですので,先輩の就活の情報も少なく,苦労があったとおもいます.さらに東日本大震災の年でもありました.
吉澤さん:就活はじめより,できれば出身県である長野県で就職したいと考えていました.でも,自分がやりたい仕事ができれば場所は選ばないつもりでした.
先輩からの情報がないので,就職活動はまさに手探り状態.企業情報の集め方がわからず,知っている企業をとりあえず受ける,といった就職活動になってしまったと思います. 折悪く東日本大震災も起こってしまいました.ちょうど東京駅での説明会のときでした. 電車が動かず,そのまま東京駅で一泊し,翌日,長野方面だけ動いていたので実家に帰りました.2週間後東京に戻ってきたときには,選考を考えていたいくつかの企業は募集を取りやめていました.
聞き手:あのときは大波乱の就活でしたね.でも運よく,貴社が採用してくれました.
吉澤さん:人事には,いろいろよくしてもらいました.「おまえの3年後にかけて採用」と言われました.先日,3年目にしてやっと「採用してよかった」と言われましたね.
吉澤さん
聞き手:それはよかったです.
吉澤さん:大変だった分今の会社に思い入れがあります.
住み慣れた地元で好きな仕事(機械設計)を行っているという現状を振り返ると,結果的に他の企業に合格しなくてよかったとも思っています.
聞き手:長野は様々な優良企業がたくさん集まっている地域ですね.
長野から来ている学生もたくさんおりますので,長野で働くという魅力を紹介していただけますか.
吉澤さん:業務で言えば,設備設計に必要な部品が周辺地域で用意できることが特徴的だと感じます.
加工業者,製造会社,販売業者それぞれに強みを持った会社が多く密集しているため,自分たちの要望にいろいろな面で答えてくれる,モノづくりに適した土地柄と言えます.身近にあるので,顔を出して,一緒にやれるのがメリットですね.図面のやり取りなんかでは直接注意されたりしています.板金が得意なところ,切削の精度がいいところ,メッキがよいところとか,選択肢が多いですね.電子部品よりは,ベアリングやエアーなど金属部品が強いところが多いような気がします.

生活面では水と食べ物がおいしいです.実は働くといったことを考えると,自分の生活充実度がすごく重要になることが実感できました.ものづくりは体力勝負になるので,1年中健康でいられる環境は何物にも代えがたいです.
聞き手:...私は長野のそばが好きです.
では次に,学生時代についてお聞きしたいと思いますが,まず,入学して未来ロボティクス学科をどう思いましたか.「ロボット体験演習」でfuRoの方々がロボット製作を指導してくれ,いきなり加工,基板作成,ノートパソコンで制御だったと思います.さらに,数学は,黒板の板書が英語でした.
吉澤さん:1年初めの感想は,なんだかよくわからないが面白いことをやらせてくれそうな期待感でした.板書が英語の授業は抵抗がありましたが,そこで慣れたおかげか今英語の仕様書を読むことにさほど苦労していません.
当時は,「座学だけでなく,手を動かして作り出すことが楽しいな.」としか感じていませんでしたが,この時期に経験した「手を動かして作り出す」ことが社会に出てすごく大切なことだったのだと実感しています.設計,加工,購入,組み立て,制御,調整を行った経験は,今の業務にも役立っています.
「ロボット体験演習」では,デコトラをつくりましたね.
聞き手:実はそんな吉澤さん作のロボットが写真で残っていました.
ロボット
吉澤さん:まさか,写真があるとは...
前のほうに距離センサがついていて,手を近づけると追いかけてくるようにプログラムしました.CPUはH8tiny.部品とかは,fuRo(未来ロボット技術研究センター)から頂いた秋葉原の部品購入マップを見ながら集めていました.
聞き手:動画見たいですね.探しておきます.
さて,2年生になると,一転して,制御・力学・電気電子,理論の勉強でした.
吉澤さん:2年の時はこれらの理論が嫌いでした.
今でこそ必要性を感じこっそり当時の復習を行っていますが,当時の成績は低空飛行だったことを覚えています.
金属加工は頑張ると形になりますが,理論の勉強は頑張っても形にならないので当時はやりたくなかったです.今は形にするためものとして必要性を感じています.
機力(機械力学),すごく重要です.機力が出来たら食べていけそうな気がします.生産設備担当だからかもしれませんが.
やりたいことを見つけると楽しくなりますね.
聞き手:そうして3年生で研究室に配属され,研究生活をスタートさせたわけですが,どのような研究テーマでしたか.
吉澤さん:「農業にロボットを活用する」を目標として,ビニールハウス内の野菜や果物を観察するロボットの研究開発を行っていました.アッカーマン(ステアリング機構のひとつ)の4輪駆動に,USBカメラ付のマニピュレータを付けた,外部PCから遠隔操作するロボットです.設計から,移動経路の生成,カメラインターフェイス,センサ回路の製作まで行いました.理論系の重要性を知ったのはこの時です.自分で動かすようになってから理論の重要性がわかりました.数学ってすげえなぁと.
聞き手:ヤコビ行列(ロボティクスでは,手先の速度と関節の角速度の関係を表す行列)覚えていますか?
吉澤さん:覚えています.そして,0を考え出した話とか,マイナスの概念,ローマ数字がアラビア数字になった話とか.
聞き手:結構覚えていますね.
研究室での思い出はありますか?
吉澤さん:とにかくロボットを動かすことが楽しくてしょうが無かった.
自分の考えていたものが実際形にされ,思い通りに動かせた時の喜びが何度も味わいたくて仕方がなかった.
研究活動を通して,ロボットと数学の強い結びつき.ロボットを制御する際の物理的な限界.最後にものをいうのは気力と根性と体力.これらを身に付けられたことが,今の自分の仕事の基幹になっています.
聞き手:いい経験です.
学生時代に学んだことで一番役に立っていることはなんでしょうか.
吉澤さん:仕事に関しては,驚くことに,役立たなかったことが何一つ無いです.
これは使わないだろーなー,と当時思っていた流体力学も非常に役に立ちました.
この時学んだ内容で成功したプロジェクトもあります.
それだけこの学科の学習内容は,現実のものづくりに役立つものばかりでした.
1~2年時にしっかり勉強しなかったことが悔やます.

社会人として生きていく中で1番役立ったことは,ある先生からいただいた言葉です.

―― あれもこれもと手を出すのではなく,まずは1つのことをきちんと身に付けなさい.
1つのことが身に付けられたら.次のことを身に付けなさい.
はじめは物足りなく感じるかもしれないが,これだけは気を付けなさい.――

卒業間際にいただいたこの言葉を意識し,仕事をしてきました.
始めは確かに少し物足りなかった.
上司にも,積極性が足りないのではないか,と言われたりもしました.
しかし,最近になってミスや落ちのない仕事ぶりが評価されてきたのか,いろいろな案件を任せていただけるようになりました.いつの間にか複数の仕事を抱えており,スケジュールも密になってきていますが,一つずつ仕事をこなしていくことができています.

知識だけでなく,生き方を教えてもらえたことが一番役立ったことです.
聞き手:いい話です.ぜひ,来月のOB/OG会でも披露してください.
では,最後に,未来ロボの学生たちに先輩として一言アドバイスをお願いします.
吉澤さん:ぜひ,学生時代にたくさん社会人の人と会話してください.会話する技術を学生のうちに身に付けてください.そして,会社で働く理由をはっきりさせておいてください.なんでもいいですが,辛いときには頑張れる理由になります.
聞き手:本日はお忙しいところありがとうございました.活躍を期待しております.